藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
夏の文具フェスタが近づき、事前準備もいよいよ大詰め。

担当者の片瀬くるみだけでなく、俺や手の空いているメンバーもサポートに回った。

「ポスターとチラシ、それからノベルティも現物が届いた。全員で隈なくチェックしてくれ」
「はい」

会議室に大量のダンボールを並べて、皆で検品を始める。

「みなさん、この手袋を使ってください。チェックを終えたものは、こちらのダンボールにお願いします。そのあとはノベルティの詰め合わせ。A4サイズの不織布の手提げに、クリアファイルとボールペンと付箋とステッカーを1部ずつ入れていきます」

テキパキと指示を出す片瀬くるみ、流石なり。

「このノベルティ、可愛いね」
「ポスターデザインもすてき」
「ほんとにセンスいいよね、くるみちゃん」

先輩から褒められても、片瀬くるみは「いえ、そんな」と謙遜を忘れない。

俺はひたすら(クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー)と心の中で呟きながら、1つずつ手提げの中に入れていった。

「くるみちゃんてさ、仕事はできるし美人だしモテるし、非の打ち所がないよね」

クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー……

「私の同期が告白しても、ことごとく玉砕。かれこれ5人かな?」

クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー……

「未練たらしく、くるみちゃんが心に決めた相手って誰なんだ? って、しつこく問い詰められたりするのよ」

クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー……

「でも私も気になるわー。くるみちゃんのお相手なら、さぞかしイケメンで優秀なんでしょうね、はるとさんって」

クッリア……ファ……ルト、ペン……

(いかん、何を動揺している? たまたまだ。彼女の恋人が、たまたま俺と同じ名前だというだけだ)

俺は1つ深呼吸してから、また手を動かし始めた。

「でもさ、くるみちゃんっていつも残業してるけど、デートの時間はちゃんと取れてるの?」

クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー……

「あ、デートはしていません。つき合っている訳ではなく、私が想いを寄せているだけですので」
「ええ!? そうなの?」

クックックリア、ファんだってー?

俺は完全に手を止めた。

「くるみちゃんの片想いってこと? じゃあくるみちゃん、今はフリーなのね?」
「確かにつき合ってはいませんが、フリーだとは思っていません。彼のことが好きなので」
「身体はフリーだけど心はあなたのものってこと? やーん、プラトニックラブ!」

なんだと?
それは相手にも好きと伝えた上で?
それとも、何も伝えずに?

俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「くるみちゃんほどの人がプラトニックなんて。はるとさんに好きって伝えて、返事をもらったの?」
「いえ。彼は存在してくれるだけでいいので」

ドクッと俺の心臓が音を立てる。

(落ち着け、落ち着くんだ。違う。相手は断じて俺ではない。なぜなら俺は、4月に異動して来たばかり。彼女はもっと前から既に、何人もの告白を断ってきたそうじゃないか)

だがそれなら、あの俺をロックオンしてからのハートビームは?

(えっ、やっぱり俺? 異動して来る前から、どこかで俺を見かけて好きになっていたとか?)

いや、それも違う。
なぜなら片瀬くるみは、普段はスーンと俺に接しているのだから。

(わからん! もはや何がなんだか……)

すると突然片瀬くるみが「藤木部長」と呼んだ。

「な、なんだね?」
「クリアファイルが2枚入っています」
「……面目ない」
「いいえ、誰しもミスはありますので。ヒューマンエラーは起こり得るものとして、常にダブルチェックを怠らないようにしています」
「……かたじけない」

返す言葉もなく、俺はまた
クリアファイルとボールペンと付箋とステッカー……
と繰り返していた。
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