藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
ところがだ。

昼休みに社員食堂に行き、空いている席を見つけて日替わりランチを食べていると、いきなりその時はやってきた。

(感じる。これは間違いなく例のアレだ)

確かめなくともわかる。

斜め後ろから、片瀬くるみが食い入るように俺の背中を見つめてロックオンしていることが。

(まただ。一体、何なんだこれは?)

こういう女子の視線には多少なりとも経験がある。

つまりハートマークの目で、じっと見つめられるのだ。

藤木遥斗(はると)31歳。
身長182センチ、寡黙な硬派。

よく芸能人に間違われ、見知らぬ女性からいきなり告白されたりもする。

つまりモテるのだ。

自分では言わないが、容姿端麗、頭脳明晰。
31歳にして大手デザイン会社の部長。
いわゆる『エリートイケメン』というやつだ。
自分では言わないが……。

よって、今突き刺さるように浴びせられているこの視線も、ハートビームだということはわかる。

わかるのだが、そこから先がわからない。

なぜ片瀬くるみは、突然このハートビームを繰り出すのか?

これがいつものことならまだいい。
さっきだってそうだ。

タブレットでデザインを見せながら、はにかんで頬を染めるとか、恥じらって視線をそらすとか、そういうことなら俺も動揺はしない。

好きにしてくれたらいいし、なんなら子どもの頃から慣れている。

だが仕事中の彼女は、完璧なまでに隙がない。

今風に言うと、シゴデキのイケてる女子。

仕事中に男にうつつを抜かすなんてあり得ないわ、ファサッ、とロングヘアを片手でなびかせるような雰囲気なのだ。
実際はボブヘアだが……。

とにかく、ハートビームを出すなら出す、出さないなら出さない。
どちらかにしてほしい。

そう思いつつ、俺は早くこの場を去ろうと、とんかつをむさぼり食う。

すると片瀬くるみと仲の良い、同期の赤石(あかいし)千夏(ちなつ)の声が聞こえてきた。

「くるみー、ほどほどにしないと藤木部長に気づかれるよー?」

いや、とっくに気づいている。

「どうすんの? 不審に思われたら」

いや、不審どころかもはや恐怖だ。

「くるみってば! あー、だめだこりゃ。こうなるともう手がつけられないのよね」

いや、つけてくれ、頼むから!

叫びたい衝動をこらえて、俺はひたすらとんかつを噛みしめていた。
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