藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
マンションに着くと、俺は片瀬くるみを抱き上げて自分の部屋に帰る。

1LDKの寝室にとりあえず彼女を寝かせてから、簡単にリビングを片付けた。

(えっと、ロクなものがないな)

冷蔵庫を開けて中を確認すると、ネットスーパーで食料品を注文する。

(あとは、風呂を用意しておくか)

自分はいつもシャワーで済ませるが、女の子は湯船に浸かりたいだろう。

(あっ、でも足をケガしているから無理か。だけどこの暑い季節に汗を流せないのはなぁ。俺が介助すればいいか)

そう考えて急にドギマギした。

(ちょっと待て、なんだこのシチュエーション。風呂って……。いや、そもそも俺、部下を部屋に泊めるのか? それはいかんだろ!)

じゃあどうする?
今から追い返すのか?

(そんなこともできん。大体、こうなったのは俺の責任だ)

それなら、面倒を見る義務がある。
だが一緒にいるのはマズイ。

(近くのビジネスホテルに俺だけ移動して、1時間ごとに様子を見に戻るとか?)

そう思っていると、カチャッと寝室のドアが開いて、片瀬くるみが顔を覗かせた。

「部長……? 痛っ」
「あ、こら! 歩くな」

俺は慌てて彼女を抱き上げて、ベッドに座らせる。

「どうした? 何か飲みたいとか?」
「いえ、あの。目が覚めたら知らないところにいたので、不安になって……」
「そうか、ごめん。ここは俺のマンションだ。とりあえず、今何か飲み物を持って来る」
「はい、ありがとうございます」

俺は頷くと立ち上がり、キッチンでコーヒーを淹れて戻った。

「ミルクと砂糖は?」
「いえ、ブラックで。ありがとうございます」

片瀬くるみは両手でカップを握ると、ゆっくりと口をつける。

「美味しいです」
「よかった。あと、デリカッセンで買っておいたものも残ってる。食べるか?」
「はい、いただきます」
「ああ。赤石さんが君の好きそうなものを選んでくれた。待ってろ」

ダイニングに戻り、紙袋からラザニアを取り出してレンジで温めると、サラダと一緒に皿に盛り付けて運んだ。

「わあ、美味しそう!」

見たこともないほど嬉しそうな笑顔を浮かべる片瀬くるみに、思わずドキッとする俺。

いやいや、何を考えている?

「いただきます」
「ああ、ゆっくり食べろ」
「はい」
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