藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
簡単に掃除と洗濯を済ませると、俺はソファでいつものようにパソコンを開く。

「コーヒーでも淹れるよ。あ、紅茶の方がいいか?」

尋ねると片瀬くるみは申し訳なさそうに「では紅茶をお願いします」と頭を下げた。

「紅茶な、わかった」
「ありがとうございます」

飲みながらパソコン作業を始めると、片瀬くるみが傍に置いた自分のバッグを手繰り寄せた。

「部長、私もパソコンして構いませんか?」
「ん? ああ、ご自由にどうぞ。ごめん、退屈だよな?」
「大丈夫です。普段うちでも休日はパソコンいじりながらゴロゴロしてますから。それを知ってて、千夏もパソコンを入れてくれたみたいです」
「そうか。仲がいいんだな、赤石さんと」
「はい。彼女は唯一、何でも打ち明けられる相手なんです」
「なるほど、同期っていいよな」

そこまで言って俺は、ふと同期の野島のことを思い出した。

(あいつは片瀬くるみを知ってるみたいだったな。やっぱり彼女の片想いの相手は、野島なのかも?)

そう思い、さりげなく聞いてみる。

「俺の同期に経理課長がいるんだけど、知ってるか?」
「はい、野島課長ですよね?」
「そう。君とは何か接点があったの?あいつは君のことを知ってるみたいだったけど」

すると片瀬くるみは、困ったように視線を落とした。

「いえ、特には」
「ふうん。それならあいつの下の名前知ってる?」
「いえ、知らないです」

えっ!と俺は驚いた。

「知らないの?」
「はい。すみません、存じ上げなくて」
「いや、いいんだ」

そう答えつつ、頭を働かせる。

(ということは、やっぱり彼女の相手は野島じゃないんだな。それなら一体……)

考え込んでいると、片瀬くるみが話の流れでといった感じで聞いてきた。

「藤木部長の下の名前は何とおっしゃるんですか?」
「俺? 遥斗だけど……」
「えっ、ええー!?」

大声で聞き返されて俺は怯む。

(知らなかったのか。それなら俺も彼女の相手ではない。それは当然だ、うん)

己に頷いていると、片瀬くるみは、みるみるうちに頬を赤らめた。

心なしか目には涙が浮かんでいる。

「えっ、どうした?」
「いえ、あの。驚いてしまって」
「何に?」
「その、思い入れのある人と同じお名前だったので」
「それって……誰のこと?」

思い切って聞いてみたが、片瀬くるみはうつむいたまま口を閉ざす。

「いえ、その、お忘れください」

結局それ以上は踏み込めず、二人で気を取り直して、パソコンに集中した。
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