藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
「たまにはこっちのダイニングテーブルで食べるか?」

パスタの皿を並べると、俺はソファに近づいた。

もはや社交ダンスのパートナーみたいだなと思いながら、すっかり慣れた手つきで抱き上げると、片瀬くるみも俺の首に両手を回す。

(そう、安定のこのポジション)

そう思ってふと視線を落とすと、片瀬くるみは頬を真っ赤にしながらうつむいていた。

(えっ!)

俺は戸惑って言葉に詰まる。

これまでの強烈なハートビームとは違い、恥じらう乙女のようなウブな反応に、俺の心臓までドキドキしてきた。

ギクシャクしながら、ダイニングの椅子にそっと座らせると「すみません……」と可愛らしい声で言う。

(ど、どうしたんだ。『私に何か? ファサッ』てな、いつもの片瀬くるみはどこに行ったんだ?)

そして俺は、あのハートビームが、しばらく飛んでこないことにも気づいた。

(いつからだ? ケガをした時からか)

俺の下の名前を知らず、想いを寄せている相手が俺ではないことがはっきりした途端に、なぜこの反応?

ますます訳がわからない。

パスタを食べながらそっと視線を上げて様子をうかがと、片瀬くるみは緊張気味に、くるくる丸めたパスタをパクッと頬張った。

(なんか、ちょっと、可愛くないか?)

その時、片瀬くるみが上目遣いにチラリと俺を見上げる。

目が合うとパッとうつむいて、頬をピンクに染めた。

(なんか、ちょっと、可愛くないかー?)

俺の胸は一気に高鳴った。

(これは遠い昔に置いてきた、甘いときめき。そう、初恋のような)

30過ぎの男が何言ってんだと思いつつ、どうにも落ち着かない。

互いを意識しつつ、無言のままパスタを食べ終えた。
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