藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
「コンビニ行ってくる。何かほしいものはあるか?」

皿洗いを終えると、俺は部屋の鍵を手にして片瀬くるみを振り返った。

「いえ、何も」

考える素振りも見せない彼女に尋ねる。

「アイスはバニラ派? それともチョコ派?」
「チョコです」
「わかった、チョコな」
「あ……」

しまったとばかりに口元に手をやる片瀬くるみにクスッと笑ってから、俺は玄関を出た。

帰ってくると、二人でアイスクリームを食べてくつろぐ。

(そういえばずっと安静にして、外にも出られてないな)

そう思い、提案してみる。

「外の空気でも吸いに行くか?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ。歩いたらだめだけど、このマンションの3階がパティオになってるんだ。ベンチに座ってガーデンを眺めるだけでも気分転換になるだろう」

すると片瀬くるみは、パッと目を輝かせた。

「はい、行ってみたいです!」
「よし、じゃあ3階に着くまでは歩くなよ?」

そう言って俺は、いつものように片瀬くるみを抱き上げた。

いつもの二人のポジションにぴたりと収まる。

(うん、抱きやすい。って、なんだ? 抱きやすいって)

頭の中で「抱きやすい」と2度も繰り返してしまった。

しかも片瀬くるみは俺の首に手を回して抱きつきながら、顔が真っ赤になっている。

(ちょっと待て、いつからだ? 前はもっと普通に、あらよって感じだったよな?)

妙に意識してしまい、二人とも無言のままエレベーターに乗って3階に下りた。

「わあ、緑がきれいですね」

俺はガーデンの真ん中まで進むと、白いベンチに片瀬くるみをそっと座らせる。

「いろんな花が咲き乱れていて、とってもすてき。噴水も涼しげでいいですね」

会社ではクールな顔しか見せないが、今は無邪気な子どものようだ。

夏のさわやかな風が、片瀬くるみの肩までの髪をふわりと揺らした。

「いいなあ、こんなところに住めるなんて」
「いつでも見に来たらいい。あ、ちゃんと俺を呼んでからな」
「ふふっ、ありがとうございます」

何だこの感じは。
いつからこうなった?
前はもっと違ったよな。

(けど……、悪くない)

俺は片瀬くるみと肩を並べて、見慣れたパティオを新鮮な気持ちで眺めていた。
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