藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
温人を忘れた?


藤木部長が部屋を出て行くと、私はふうとため息をついた。

ここ数日の、怒涛のような出来事を振り返る。

(色々あって、ありすぎて、気持ちが追いつかないよ)

それは私の中に芽生えた小さな変化。

(知らなかった。抱きしめられると、こんなにも胸が温かくなるなんて)

いつも頭の中で想像していただけだった。

温人に抱きしめられることも、話しかけられることも。

(だけど部長の腕の中はものすごく安心できて、心強くて頼もしくて。ありのままでいろって真剣に見つめてくれて、胸の奥がじんわりして……)

全部全部、初めてのことだった。

(漫画の中の温人を想像してキュンとしてたけど、実際はそんなものじゃなかった。切なくて苦しくて、涙が込み上げそうになる)

思わず両手で自分を抱きしめた。

(温人にされていると思うから、こんな気持ちになるの? それとも、部長だから?)

いや、きっと現実に抱きしめられたのが初めてだったからだ。

相手が誰でも、こんな気持ちになるはず。

(そうよね、うん。部長だからってことはないよ)

それならなぜ、今日もここにいていいと言われて嬉しくなっている?

12時半に帰ってくるのを、なぜ心待ちにしている?

(だからそれは、温人と重ね合わせているから。現実に温人がいたら、こんな感じなんだろうなって)

私は自分にそう言い聞かせつつ、昼食の準備をしようと張り切って腕まくりをした。
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