藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
部屋に帰ると、くるみは手際良く食事を作り、ローテーブルにお茶と一緒に並べる。

「はい、今夜は天ぷらそうめんにしてみました。あと、オクラと大根おろしの揚げ出し豆腐も」
「おっ、うまそう。いただきます」

シゴデキ女子なのに、料理もできるなんてと改めて感心しながら、俺はくるみの手料理を美味しく味わった。

「あの、遥斗さん。お話っていうのは……」

食後のお茶を飲みながら、くるみがそう切り出す。

「ああ、何?」
「その、これなんですけど」

くるみは立ち上がると、クローゼットを開けて漫画を何冊か手にした。

「やっぱり、処分した方がいい?」

そっとうかがうように俺に尋ねるくるみに、「どうして?」と聞き返す。

「その漫画は、くるみの大切なものだろ? 」
「だって遥斗さんにとっては、気分のいいものじゃないかと思って」

自信なさげなくるみに、俺は優しく笑いかけた。

「俺が漫画の中の温人に嫉妬するかもって思ってる? そんなに余裕のない男じゃないよ」
「そうよね、ごめんなさい。じゃあ、このまま持っててもいい?」
「もちろん。俺もちょっと読んでみたいな」

そう言うと、くるみは「ほんと?」と目を輝かせた。

「あのね、遥斗さんとぴったり重なるシーンが何度か出てくるの。私、その度に目がハートになっちゃって、大変だったんだから」
「ああ、それは俺も大変だった。突然ロックオンされて飛んできたからな、ハートビームが」
「えっ、気づいてたの?」
「いや、気づくだろ!」

くるみは気もそぞろに、漫画のページをめくる。

「ほら、このページとか。あとここも」
「ほんとだ。これはシンクロするな」
「でしょう?」

社員食堂で後ろから見つめられた時。
ボールペンを拾った時。
飲み会の帰りにタクシーで送った時。
同期の野島と笑顔で話しているのを見かけられた時。
そして、階段を踏み外したところを抱き留めた時。

くるみのハートビームスイッチが入ったシーンが、キラキラと彩られて漫画に描かれていた。

「へぇ、主人公の名前も『くるみ』っていうのか。それじゃあ錯覚するよな」
「そうなんだけど、あの、遥斗さん」
「ん、何?」

俺は漫画から顔を上げて、くるみを見つめる。

「私、漫画と現実をごちゃまぜにしている訳ではないですから。温人と重ね合せて、錯覚してるのでもないです。私は、あなたが好きなの」

いきなりの直球どストライクの告白に、俺はあっさりやられてしまう。

たまらずくるみを両手で抱きしめた。

「わかってる。俺もくるみが心から大好きだ」
「うん、ありがとう」

優しく頭をなでてから、くるみのきれいな瞳を覗き込む。

甘い眼差しで俺を見つめるくるみに頬を緩め、俺は想いを込めてその唇にキスをした。
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