藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
「くるみ、こっちだ」
来場者が出口に向かう列の中、俺は最後に手前の部屋へとくるみを誘った。
「えっ、なあに? ここ」
真っ暗な部屋をくるみの手を引いて進み、中央まで来ると立ち止まる。
「あの、遥斗さん?」
不思議そうにくるみが顔を上げた時だった。
パーッと一斉に光の粒が部屋中に溢れ出す。
「えっ、何?」
くるみは驚いて、俺の腕をギュッと掴みながら、部屋を見渡した。
キラキラとまばやく輝く光がゆっくりと落ち着いていき、やがてそこに美しいお城を映し出す。
「これ……!」
「くるみ、わかる?」
「ドイツのノイシュバンシュタイン城でしょう?」
「そうだよ。あの漫画で、温人とくるみが旅行に行った思い出の場所」
そう、俺はくるみがあの漫画で1番お気に入りのシーンを再現することにしたのだった。
漫画の中では他の観光客に交じって、部屋を見学しただけの温人とくるみ。
だが、今俺たちは二人きり。
くるみのお気に入りのシーンを、俺は現実のものにし、忘れられない大切な瞬間にしたい。
そう思い、閉館後の15分だけ貸し切りにしてほしいと頼んだのだった。
今俺たちの目の前に広がっているのは、マリエン橋から見えるノイシュパンシュタイン城。
「世界一美しい」と称されるお城が雪に覆われた姿は幻想的で、くるみはうっとりと魅入っている。
「くるみ、中に入ろうか」
「えっ、どうやって?」
俺は優しく笑いかけると、くるみの手を取り、真っ直ぐ前へと歩いて行く。
すると再び光が俺たちを包み、城内へと導くように新たな映像に囲まれた。
立ち止まると、足元から徐々に金色の装飾が生まれ、最後に天井に大きなシャンデリアと星空が広がる。
「すごい……。 ここは玉座の間ね?」
「そうだよ」
ノイシュパンシュタイン城を建てたルートヴィヒ2世が愛したリヒャルト・ワーグナーのオペラ曲「ローエングリン」が、どこからともなく流れてきた。
厳かでロマンチックな雰囲気に、くるみは言葉もなく酔いしれている。
その美しい横顔を見つめてから、俺は「くるみ」と名を呼んだ。
「はい」
顔を上げたくるみの両手を握り、俺はくるみの前に片膝をつく。
「えっ、あの、遥斗さん?」
「くるみ。ずっと漫画の世界に憧れてきたくるみを、俺は現実の世界に連れ出したかったんだ。想像ではなく、俺と一緒に体験してほしいって。だけど少し、漫画の創造の世界も借りた。夢と現実の狭間、そんなこの空間で俺は君に告げる」
そこまで言うと、俺は真っ直ぐにくるみの瞳を見つめた。
「くるみ、俺と結婚してくれ」
くるみはハッと息を呑む。
「くるみがこれまで夢見てきた理想、それを俺は1つずつ叶えたい。漫画の中の温人ほど、上手くはいかないかもしれない。だけど俺は、どんな時もくるみのそばにいて、温かく抱きしめる。漫画の中の七瀬くるみのような隙のない美人ではなく、可愛くて優しくて、美人だけど時々隙のある、そんなくるみが俺は誰よりも好きだ。片瀬くるみは、藤木遥斗の永遠のヒロインです」
くるみの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
俺は右手を伸ばして、きれいなその涙を指先で拭う。
「結婚しよう、くるみ」
くるみは懸命に涙をこらえて、唇を震わせる。
「私、私は……」
「うん、何?」
「私、ずっと漫画の中で生きてきたの。佐伯温人を好きになって、彼に追いつきたくて勉強や部活もがんばって、就職する時も彼の背中を追いかけた。彼が私を引き上げてくれるんだって、現実には彼以上の人なんていないって、ずっとそう思ってたの。だけどあなたと知り合って、一緒に過ごすうちに、たくさんのことを教えてもらった。あなたの腕の温もり、優しい眼差し、頼もしい言葉。本当に心が通い合うと、こんなにも切なくて胸が締めつけられるんだって。本当に人を好きになるって、こういうことなんだなって。そして、本当に愛されるとこんなにも幸せなんだと。遥斗さん、あなたこそが私のただ一人のヒーローです」
「くるみ……」
「これからも、あなたと一緒に色んな景色を見て、心を通わせて、たくさんの思い出を作っていきたいです。あなたの手の温もりを感じながら。遥斗さん、どうか私と結婚してください」
俺の心がしびれ、じんわりと温かくなる。
幸せな世界に生きているのだと、確かに実感できる喜び。
「ああ。結婚しよう、くるみ」
「はい、遥斗さん」
愛し、愛され、胸が打ち震えるこの瞬間を、二人で分かち合おう。
ずっとずっと、いつまでも心の中に残る大切な瞬間を。
俺はポケットからリングケースを取り出すと、くるみの左手をすくい、薬指にゆっくりと指輪をはめた。
「わぁ、きれい」
くるみは見たこともないほど幸せそうな笑顔で、そっと指輪に触れる。
「なんだか重みを感じます。あなたの想いがたくさん詰まってるって、実感して」
「ああ、これは単なる指輪じゃない。くるみを想って選び、くるみへの愛を込めて贈った。その証だよ」
「はい、ありがとう遥斗さん。いつでもあなたをすぐそばに感じられる」
優しい表情で笑顔を浮かべるくるみが、たまらなく愛おしい。
「くるみ、世界で一番君を愛している」
俺はくるみの肩を抱き寄せてささやくと、その気持ちを込めて優しく口づけた。
来場者が出口に向かう列の中、俺は最後に手前の部屋へとくるみを誘った。
「えっ、なあに? ここ」
真っ暗な部屋をくるみの手を引いて進み、中央まで来ると立ち止まる。
「あの、遥斗さん?」
不思議そうにくるみが顔を上げた時だった。
パーッと一斉に光の粒が部屋中に溢れ出す。
「えっ、何?」
くるみは驚いて、俺の腕をギュッと掴みながら、部屋を見渡した。
キラキラとまばやく輝く光がゆっくりと落ち着いていき、やがてそこに美しいお城を映し出す。
「これ……!」
「くるみ、わかる?」
「ドイツのノイシュバンシュタイン城でしょう?」
「そうだよ。あの漫画で、温人とくるみが旅行に行った思い出の場所」
そう、俺はくるみがあの漫画で1番お気に入りのシーンを再現することにしたのだった。
漫画の中では他の観光客に交じって、部屋を見学しただけの温人とくるみ。
だが、今俺たちは二人きり。
くるみのお気に入りのシーンを、俺は現実のものにし、忘れられない大切な瞬間にしたい。
そう思い、閉館後の15分だけ貸し切りにしてほしいと頼んだのだった。
今俺たちの目の前に広がっているのは、マリエン橋から見えるノイシュパンシュタイン城。
「世界一美しい」と称されるお城が雪に覆われた姿は幻想的で、くるみはうっとりと魅入っている。
「くるみ、中に入ろうか」
「えっ、どうやって?」
俺は優しく笑いかけると、くるみの手を取り、真っ直ぐ前へと歩いて行く。
すると再び光が俺たちを包み、城内へと導くように新たな映像に囲まれた。
立ち止まると、足元から徐々に金色の装飾が生まれ、最後に天井に大きなシャンデリアと星空が広がる。
「すごい……。 ここは玉座の間ね?」
「そうだよ」
ノイシュパンシュタイン城を建てたルートヴィヒ2世が愛したリヒャルト・ワーグナーのオペラ曲「ローエングリン」が、どこからともなく流れてきた。
厳かでロマンチックな雰囲気に、くるみは言葉もなく酔いしれている。
その美しい横顔を見つめてから、俺は「くるみ」と名を呼んだ。
「はい」
顔を上げたくるみの両手を握り、俺はくるみの前に片膝をつく。
「えっ、あの、遥斗さん?」
「くるみ。ずっと漫画の世界に憧れてきたくるみを、俺は現実の世界に連れ出したかったんだ。想像ではなく、俺と一緒に体験してほしいって。だけど少し、漫画の創造の世界も借りた。夢と現実の狭間、そんなこの空間で俺は君に告げる」
そこまで言うと、俺は真っ直ぐにくるみの瞳を見つめた。
「くるみ、俺と結婚してくれ」
くるみはハッと息を呑む。
「くるみがこれまで夢見てきた理想、それを俺は1つずつ叶えたい。漫画の中の温人ほど、上手くはいかないかもしれない。だけど俺は、どんな時もくるみのそばにいて、温かく抱きしめる。漫画の中の七瀬くるみのような隙のない美人ではなく、可愛くて優しくて、美人だけど時々隙のある、そんなくるみが俺は誰よりも好きだ。片瀬くるみは、藤木遥斗の永遠のヒロインです」
くるみの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
俺は右手を伸ばして、きれいなその涙を指先で拭う。
「結婚しよう、くるみ」
くるみは懸命に涙をこらえて、唇を震わせる。
「私、私は……」
「うん、何?」
「私、ずっと漫画の中で生きてきたの。佐伯温人を好きになって、彼に追いつきたくて勉強や部活もがんばって、就職する時も彼の背中を追いかけた。彼が私を引き上げてくれるんだって、現実には彼以上の人なんていないって、ずっとそう思ってたの。だけどあなたと知り合って、一緒に過ごすうちに、たくさんのことを教えてもらった。あなたの腕の温もり、優しい眼差し、頼もしい言葉。本当に心が通い合うと、こんなにも切なくて胸が締めつけられるんだって。本当に人を好きになるって、こういうことなんだなって。そして、本当に愛されるとこんなにも幸せなんだと。遥斗さん、あなたこそが私のただ一人のヒーローです」
「くるみ……」
「これからも、あなたと一緒に色んな景色を見て、心を通わせて、たくさんの思い出を作っていきたいです。あなたの手の温もりを感じながら。遥斗さん、どうか私と結婚してください」
俺の心がしびれ、じんわりと温かくなる。
幸せな世界に生きているのだと、確かに実感できる喜び。
「ああ。結婚しよう、くるみ」
「はい、遥斗さん」
愛し、愛され、胸が打ち震えるこの瞬間を、二人で分かち合おう。
ずっとずっと、いつまでも心の中に残る大切な瞬間を。
俺はポケットからリングケースを取り出すと、くるみの左手をすくい、薬指にゆっくりと指輪をはめた。
「わぁ、きれい」
くるみは見たこともないほど幸せそうな笑顔で、そっと指輪に触れる。
「なんだか重みを感じます。あなたの想いがたくさん詰まってるって、実感して」
「ああ、これは単なる指輪じゃない。くるみを想って選び、くるみへの愛を込めて贈った。その証だよ」
「はい、ありがとう遥斗さん。いつでもあなたをすぐそばに感じられる」
優しい表情で笑顔を浮かべるくるみが、たまらなく愛おしい。
「くるみ、世界で一番君を愛している」
俺はくるみの肩を抱き寄せてささやくと、その気持ちを込めて優しく口づけた。