裏切りの先で、あなたに出会った
第1話

違和感に気づいた日




――最初は、本当に些細なことだった。



――あの日からだった。




「……ルア? むぎ?」




玄関のドアを開けながら、小さく呼びかける。







返事はない。



「珍しい……」





靴を脱ぎながら、わずかに首を傾げた。





いつもなら、足音だけで駆け寄ってくるのに。




リビングへ向かおうとした、そのときだった。




――かすかな物音。




平日の昼間。





この時間帯に、誰かがいるはずのない隣の家から。





「――いいの? 旦那さん、いるのに」





低く抑えた声。



「……いいの。だって、あの人……全然構ってくれないんだもん。ね、たっくん……」





足が、止まる。






壁の向こう。




「……たっくん?」





その呼び方に、胸の奥がざわついた。




「しょうがないな」




くぐもった笑い声。




「優衣、そういう顔されたら……困るだろ」





重なる気配。





小さな息遣い。




何かが触れ合う、かすかな音。




壁一枚。
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