没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
「どうした」

「い、いえ……っ」

慌てて視線を落とす。

見てはいけないものを見てしまった気がして、顔が熱くなる。

やがて彼は、何事もなかったかのように湯船へと足を踏み入れた。

ざぶん、と水音が響く。

「はあ……湯は悪くないな。熱めにしておいたか」

「は、はい……」

声が上ずるのを抑えきれない。

落ち着かない。心臓の音がうるさいくらい響いている。

すると、不意に――

「体を洗え」

「ええ?」

思わず顔を上げてしまった。

「わ、私がですか?」

「他に誰がいる」

当然のように言われ、言葉に詰まる。

(たしかに……侍女の仕事、だけど)

覚悟を決めるしかなかった。

私は震える手でタオルに泡を含ませると、そっと彼の背に触れた。
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