没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
(近い……)

距離が、あまりにも近い。

指先に伝わる体温に、余計に意識が乱れる。

なるべく何も考えないように、ただ手を動かす。

「前も」

「……っ」

その一言で、動きが止まりかける。

だが拒否することもできず、ゆっくりと回り込む。

(見ない、見ない、見ない……)

半ば目を閉じるようにして、ぎこちなく手を動かす。

すると――

「あはは」

低く、くぐもった笑い声。

「それでちゃんと、俺の体を洗えるのか」

次の瞬間、ぐいっと腕を引かれた。

「きゃっ……」

気づけば、すぐ目の前に彼の顔があった。

息がかかるほどの距離。

(近い……!)

逃げようとするより早く、視線が絡め取られる。
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