没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
殿下は、こちらを見てニヤリと笑った。

「落ちぶれたとはいえ、公爵令嬢の腕の見せどころだな」

(やっぱり……!)

つまり、隣国の使者に、私の淹れた茶を出せということだ。

「む、無理です!」

思わず声が大きくなる。

「相手は他国の使者ですよ?もし失礼があったら――」

「やれ。命令だ」

ぴたりと遮られる。

反論の余地はなかった。

「……はい」

渋々頷くしかない。

(どうしてこんなことに……)

心の中で頭を抱える。

確かに、貴族としての嗜みとして紅茶は学んできた。

だが、それを公の場で披露するなど――しかも皇太子の前でなど、考えたこともない。

ちらりと周囲を見る。

他の侍女たちは、少し離れた位置から静かに控えている。
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