没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
ぎゅっと手を握りしめる。

落ちぶれた令嬢でも、できることはある。

そう思った時――

ふと、彼の視線がこちらに向けられていることに気づいた。

まるで最初から、こうなることを分かっていたかのような目で。

(この方……)

本当に、私をからかっているだけなのだろうか。

それとも――

何か別の理由があるのか。

その答えはまだ分からないまま、私はただ、迫り来る午後に向けて覚悟を決めるしかなかった。

他国の使者を迎える準備は、昼から慌ただしかった。

そしてなぜか――その中心にいるのは、私だった。

「衣装を持て」

「は、はい」

差し出された豪奢な衣装を受け取りながら、内心で首を傾げる。

(どうして私が……)

普通なら、こういう役目は慣れた侍従や侍女が行うはずだ。
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