没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
それなのに、皇太子殿下は当然のように私を呼びつける。

「ええっと、この勲章は……」

見慣れない装飾に戸惑いながら、恐る恐る手を伸ばした、その瞬間だった。

ぐい、と腕を掴まれる。

「ここだ」

「ひっ……」

気づけば、その手は殿下の胸元へと導かれていた。

(ち、近い……!)

指先が、しっかりとした胸板に触れる。

湯浴びの時とは違う意味で、心臓が跳ね上がった。

「覚えろ。俺に衣装を着せるのも、お前の役目だ」

低く、当然のように告げられる。

「は、はい……分かってますぅ……」

情けない声が出る。

(なぜ……なぜ私ばかり……)

他の侍女たちは、少し離れた位置で静かに控えているだけ。

誰もこの役目を代わろうとはしない。

いや、違う。

(代われないんだ)
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