没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています

3章 偵察同行

「しばらく宮殿を空ける」

その一言は、あまりにもあっさりと告げられた。

執務室の空気が、わずかに張り詰める。

「……え?」

思わず顔を上げる。

皇太子殿下は、書類に目を落としたまま、淡々と続けた。

「隣国の動きが妙だ。表向きは友好を保っているが、裏では軍を動かしている気配がある」

静かな声。だが、その内容は決して穏やかではない。

「それで、偵察に……?」

「ああ。自分の目で確かめる」

迷いのない言葉だった。

この方はいつもそうだ。決めたことは、誰にも覆させない。

(危険なのでは……)

喉元まで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。

侍女の身で、そんなことを口にするべきではない。

それでも――胸の奥が、ひどくざわつく。

(……行ってしまう)
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