没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
ほんの数日でしかないはずなのに。それなのに、なぜか長く感じてしまう。

「出立は明日の朝だ」

「……そんなに早く」

思わず漏れた声に、殿下がわずかに視線を上げた。

その瞳が、まっすぐこちらを捉える。

「何か問題でもあるか」

「い、いえ……」

慌てて首を振る。

問題など、あるはずがない。

皇太子として当然の務めだ。

止める理由など、どこにもない。

それでも――

(どうしてこんなに……)

胸の奥が、静かに締めつけられる。

視線を落とし、ぎゅっと手を握る。

ただの侍女なのに。そんな感情を抱く資格はないのに。

「準備は整えておけ」

「はい」

短く返事をする。

けれどその声は、思っていたよりも小さく、頼りなかった。
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