没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
廊下を歩きながら、どうしても足が止まってしまう。

(……行ってしまう)

明日の朝には、もうこの宮殿にはいない。

それを思うだけで、胸の奥が締めつけられた。

ただの任務だ。皇太子として当然の務め。

そう分かっているのに――

(危険かもしれない)

隣国の動きは穏やかではない。偵察など、何が起きるか分からない。

怪我をするかもしれない。帰ってこない可能性だって――

「……っ」

そこまで考えてしまい、思わず唇を噛む。

だめだ。そんなこと、考えるべきじゃない。

それなのに、胸の奥から込み上げてくるものを、どうしても抑えきれなかった。

ぽろり、と涙が落ちる。

(どうして……)

どうしてこんなに――

「どうして泣いている」
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