没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
「ち、違います……」

かろうじて絞り出した声は、まったく説得力がなかった。

震えているのが、自分でも分かる。

「嘘が下手だな」

くすり、と笑う気配。

けれど責めるような響きはなく、どこか楽しんでいるようだった。

「連れて行きたいのはやまやまだが」

腕の力が、わずかに強くなる。

「馬車で行くわけにはいかない」

その言葉に、胸がきゅっと痛んだ。

(やっぱり……)

期待してはいけないと分かっているのに、どこかで願っていた。

少しでも、側にいられたらと。

「……申し訳ありません」

小さく呟く。

自分の感情が、ひどく恥ずかしかった。

侍女のくせに。こんな想いを抱くなんて。

すると――

「謝るな」

低く、静かな声。

「嫌いな女を抱き寄せたりはしない」
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