没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
「……ほう」

背後で、低い声がする。

「馬術は得意な方なんですよ」

振り返って微笑む。

幼い頃から身につけてきたものだ。

これだけは、誰にも負けない自信があった。

しばしの沈黙。やがて――

「……仕方ないな」

呆れたような、それでいてどこか楽しげな声。

殿下も馬に乗り、手綱を取る。

「だが、条件がある」

「何でしょうか」

「俺の側を離れるな」

その言葉に、思わず笑ってしまう。

「いつも側にいますってば」

軽く返すと、殿下は少しだけ表情を変えた。

「……今回は、特にだ」

その声音は、先ほどまでとは違っていた。

どこか、強く。

そして――少しだけ、優しい。
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