没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
胸の奥が、わずかに熱を帯びる。

初めて夜会に出たあの日から、ずっと。

あの方は、私にとって“遠い光”だった。

近づくことも、触れることも許されない。

ただ遠くから見つめるだけの存在。

それでも、憧れていた。

(最後くらい……)

そう思った瞬間、自分でも驚くほど自然に足が動いていた。

もう、失うものは何もない。

ならば――

最後に一度だけ、あの人に近づきたい。

その想いを胸に、リゼリアはゆっくりと歩き出した。

皇太子は、女嫌いで有名だった。

若い頃に婚約していた令嬢が、ひどく気まぐれでわがままだったらしい。

振り回された末に、婚約は破棄された――そんな噂が、宮廷では半ば事実のように語られている。


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