没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
街の活気だけを見れば、そう思える。

その時だった。

「お二人さん、違う国から来たのかい?」

近くの時計屋の店主が、気さくに声をかけてきた。

「この国はいい国だよ。税金が安いからね」

「へえ」

殿下が、さりげなく相槌を打つ。

だが店主は、少しだけ顔を曇らせた。

「ただな……兵士の奴らが、威張らなければな」

その言葉が終わるかどうかのうちに――

「親父!また時計、もらいに来たぞ!」

乱暴な声とともに、兵士が現れた。

棚に並んだ時計を一つ掴むと、そのまま懐へ押し込む。

「またな」

何事もなかったかのように背を向ける。

「お代は払わないのか」

殿下が、静かに問う。

店主は苦笑いを浮かべた。

「兵士に言っても無駄さ」

その言葉を聞いた瞬間、殿下の目がわずかに変わった。
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