没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
兵士は舌打ちを残し、その場を去っていく。

殿下は何事もなかったかのように、袋を店主に差し出した。

「代金だ」

「す、すごいな、あんた……!」

店主は目を丸くしている。

「いやあ……」

殿下は軽く肩をすくめただけだった。

まるで、大したことではないと言うように。

(……すごい)

胸が、強く高鳴る。怖かったはずなのに。

危険だと思ったはずなのに。

それ以上に――

(かっこいい……)

そう思ってしまった。

「お礼に、酒を奢るよ!」

店主が嬉しそうに声を上げる。

殿下は一瞬だけ私を見て、わずかに笑った。

「どうする?」

その問いに、私はこくりと頷いた。

胸の鼓動を隠しながら。

(この方の側にいられて、よかった)

そう、心から思いながら。
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