没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
時計屋の親父は、気前よく酒だけでなく食事まで振る舞ってくれた。

「いやあ、あんたいい人だな」

豪快に笑う親父に、殿下はただ穏やかに微笑んでいる。

「ところで、あんたら二人は夫婦か?」

「ぶっ!」

思わず、二人同時に酒を吹き出した。

「なんだ、まだ結婚してないのか」

ははは、と親父は楽しそうに笑う。

「好きな奴とはな、早めに結婚した方がいいぞ」

そう言って、ちらりと私にウィンクを寄こした。

(そんなこと……)

できるなら、とっくにしている。

胸の奥が、少しだけ痛む。

やがて夜になり、親父は二階の部屋を貸してくれた。

「ゆっくりしていきな」

扉が閉まる。

静かな空間に、私と殿下、二人きり。

ふと部屋を見渡して――気づく。

「ええっと……」
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