没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
「え……」

一瞬、意味が分からない。

次の瞬間、頬が一気に熱くなる。

「そ、そんなこと……」

否定しようとするのに、言葉が続かない。

彼はくすりと笑うと、私の手を取った。

「逃げるな」

そのまま、指を絡めるように握られる。

(こんな……)

誰かに見られたらどうするのか。

そう思うのに、手を振りほどくことができない。

むしろ、その温もりが心地よくて――

「殿下……」

小さく呼ぶと、彼は満足そうに目を細めた。

「その顔だ」

「え?」

「そのままの顔を、他の奴に見せるな」

低く囁かれる。

「おまえは、俺だけを見ていればいい」

その言葉は、甘くて――少しだけ、危うかった。
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