没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
あの方の隣に立てる立場ではない。

「相手は公爵家だ」

父の声が、少しだけ明るくなる。

「おまえは、幸せになるんだよ」

その言葉に――

ぽろり、と涙がこぼれた。

(幸せ……?)

それは、本当にそうなのだろうか。

胸の奥にあるこの想いを、捨ててでも。

それでも、私は――

「……はい」

かすれる声で、答える。

それしか、言えなかった。

父を安心させるために。

そして――

自分に言い聞かせるために。

私は静かに、涙を拭った。

殿下の部屋に戻った途端、堪えていたものが溢れた。

「……っ」

涙が、止まらない。

必死に拭おうとしても、次から次へとこぼれてくる。

「どうした、リゼリア」

気づいた時には、すぐ目の前に彼がいた。
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