没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
驚いたような、それでいてどこか焦った声。

言葉にならない。

ただ、顔を伏せることしかできなかった。

すると、そっと頬に触れられる。

「寂しいのか?」

優しく、涙を拭われる。

「最近、忙しくしてて……すまない」

その言葉に、胸が締めつけられる。

そうじゃない。

「違います」

かろうじて、声を出す。

「……じゃあ、なぜ泣く」

静かに問われる。

逃げ場のない問い。

私は、何も言えなくなった。

言葉にしてしまえば、すべてが終わる気がして。

それでも――

(伝えなきゃ)

そう思った瞬間、体が先に動いていた。

彼の胸元に手を伸ばし、引き寄せる。

そして――唇を重ねた。

「……っ」

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