愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
しかし、新町と親しげに話す彼女を見ていたら、きみは俺の妻であるはずなのに、なぜ他の男に気を許したような表情を見せるのか、そんな問いかけをぶつけたいような衝動に駆られた。
そんな行動は大人げないし、契約結婚の条件とも矛盾している。だから、こうして中途半端に声をかけることしかできなかった。
「か、かしこまりました、氷室社長」
俺が勝手に踏み越えようとし境界線を引き直すように、小雪はそう言った。
時と場合をわきまえた賢い答え方である。なのに俺は、どうして不服に思っている?
胸の内で静かに自問自答しても、明確な答えは見つからない。俺はそのまま小雪に背を向け、新町の待つ食堂の出入り口の方へ向かった。
銀行担当者との打ち合わせの後、帰社して溜まっていた事務仕事を片付けると、午後七時前には帰り支度を始めた。
やろうと思えばできる仕事もあるが、どこかで区切りをつけなければ、ダラダラと非効率な時間を過ごすことになる。
結婚する前はそれでもよかったが、今は家に帰れば小雪がいて、俺の帰りを待っている――とまでは言わないが、遅くなれば心配くらいはするはずだ。
それに今日は、例の撮影の件も話さなければならない。小雪も気にしているだろうし、早く帰るに越したことはない。