愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
社長室を出たところで、こちらに向かって来る新町と鉢合わせした。その手には、なぜか黒い傘が握られている。
「どうした? 俺はもう帰るところだが……」
「だからですよ、社長。外、雨が降り出しているのでお持ちください。下に車も呼んであります」
彼に言われて、廊下の窓から外を見る。地上の真っ黒なアスファルトが、確かに雨に濡れて光っていた。
「ありがとう。気が利くな」
「お、珍しく素直」
「茶化すな。あえて言わないだけで、いつも感謝してる」
友人に戻ったような会話をしながら、新町の手から傘を受け取る。彼は少し間を置いた後、腕組みをしながら俺に言う。
「仲真さんにはそういうの〝あえて〟言えよ」
「なんの話だ?」
「だから……約束したとはいえマカロンを買うタイミングが微妙すぎないか不安だとか、仲真さんお手製のチキン南蛮の完成度に感動して気がついたら写真に撮っていたとか、風呂の壁をガラス製から他のに替えたいと相談された時、つい彼女の入浴シーンを想像したとか、そういうお前の正直な心の内だよ」
これまで、それぞれ別の日に小出しで新町に打ち明けていたプライベートの相談を一気に例に出され、思わず動揺してしまった。
妙に熱くなった首の後ろに手を置き、ぼそぼそと言い訳する。