愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
新町の手配した車で帰宅したのは七時半頃だった。
濡れた傘を外に置いて玄関の中に入ると、少しして小雪がリビングダイニングの方から顔を出す。どこか、ホッとしたような表情だ。
「ただいま」
「おかえりなさい。タオル、よかったら使いますか?」
出迎えだけでなく、やわらかいタオルまで差し出す甲斐甲斐しい行動に面喰らう。
反射的に『余計な気を回すな』という言葉が頭に浮かんだものの、少し考えて俺は別の言葉を選んだ。
「……ありがとう。使わせてもらう」
小雪は、これまで出会ってきた女性と違い、俺に対価を求めない。
プレゼントや金銭、愛情、キス、体の繋がり。そんなものよりも感謝の言葉や、俺が喜ぶ顔を見たいと、本気で思っているようなのだ。
自然とこちらの警戒心も薄れるし、俺だって、彼女の喜んだ顔が見たいと思ってしまう。
そんなことを思いながら小雪の手からやわらかいタオルを受け取り、傘をさしていても軽く濡れていたジャケットの肩やひじの辺りの水滴を拭く。
自分の部屋で着替えてからリビングダイニングのドアを開けると、温かい料理の匂いがした。
小雪が用意してくれたのだろう。テーブルにはクリームシチューやバケットが並んでいる。しかし、当の小雪本人は俺が部屋に入ってきたことに気づかず、窓辺でぼうっと外を眺めていた。