愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「時間は戻せない……頭ではわかっていても、切実に祈ってしまう経験は誰にだってあるだろう。そんなにつらい経験をしたならなおさらだ。考えることを無理にやめる必要はない」
「遼河さん……」
「しかし、つらい記憶だけじゃなく、楽しかった記憶もあるだろう? 雨の日は大切なお母さんを偲ぶ日と決めてたくさん思い出してあげたら、お母さんも浮かばれるんじゃないか? 俺は会ったことがないからこそ、きみの話を聞いて、どんなお母さんだったかの知りたい。話ならいつでも聞くから」

 俺が誰かのために、こんなに必死で言葉を重ねたのは初めてではないだろうか。

 自分はこんなに饒舌な男だったのかと新しい発見をしたような気分でもあるが、照れくささや遠慮より、目の前の小雪の気持ちを軽くしてやりたいという思いが強い。

 小雪はしばらく俯き、なにか考えているようだった。しばらくして、納得したように頷いて俺を見る。

「自分では思いつかない考えでしたが、すごく素敵ですね。私、あの時の悲しみや後悔ばかりに囚われて、母との温かい思い出を無意識に記憶の隅に追いやっていました。本当は、楽しかった出来事だってたくさんあるはずなのに……忘れかけていました」

 瞳の中に光を取り戻した小雪を見ると、俺もホッとして肩の力が抜ける。

 人を励ますなんて行為には慣れていない自覚があったため、俺の気持ちが彼女に正しく届くかどうか不安だったのだ。

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