愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
一度火照った頬もなかなか冷めないけれど、適当な皿を二枚手にしてこちらに戻ってきた彼は、対照的に涼しい顔だ。
「これでいいか?」
「あ、ありがとうございます」
やり取りの後で遼河さんがさりげなく漏らした笑みは甘く、いったいなにが起きているのだろうとパニックになる。
それからふたりぶんのフレンチトーストを焼き終わり、はちみつと粉糖をかけて仕上げると、フルーツやヨーグルトと一緒にテーブルに並べる。
遼河さんはそのすべての作業を手伝ってくれただけでなく、私の分のコーヒーまで淹れてくれた。
ふたりで向き合って「いただきます」と口にした後、私は思わず彼に問いかけた。
「あの、もしかして〝撮影用の氷室遼河社長〟をすでに演じてらっしゃいますか……?」
「……俺の様子がおかしいって?」
「いえ、おかしいというわけでは」
口では否定しながら、心の中では『おかしいです』と本音を呟いた。
遼河さんはコーヒーをひと口飲むと、少し考えたそぶりをしてから口を開く。
「確かに今までの俺とは違うかもしれないが……別に演技をしているわけじゃない。俺をこういう風にさせているのはきみだ」
「わ、私……?」
わけがわからず、自分を指さして固まってしまう。
しかし、遼河さんはそれ以上の説明はしてくれず、ナイフで切り分けたフレンチトーストを口に運んでは「うまい」と満足そうに微笑んでいる。