愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
『いつも興味深く拝見しています。私は氷室社長のファンなのですが、社長が恋人を助手席に乗せるとしたら、自社のどの車を選びますか? とのことです。社長、いかがでしょう』
再び遼河さんの顔が映し出されると、ささくれ立っていた心が少しマシになった。
『ユリシスなんか、いいかもしれません。氷室エナジーが開発したEV車の中でも、騒音や振動がダントツで少ないんです。私の自宅のガレージにも一台ありますよ』
ユリシス――オーストラリアの蝶から名前を取ったそのEV車の開発秘話を遼河さんに聞いた時のことを思い出し、胸がトクンと鳴る。
あの時と同じ生き生きした目をするしている彼は、やっぱりあの車が特別好きみたいだ。
乗りたいかと聞かれたあの時、『いつか』だなんてまどろっこしいことは言わず、素直に乗りたいと言えばよかったな……。
小さくため息をついた直後、ソファが揺れて隣に人の気配を感じた。振り向くと、ガレージの片付けが終わったらしい遼河さんが、長い脚を組んで座っている。
いつの間に戻ってきたんだろう。動画の音量を大きくしていたせいで気づかなかった。
「お、おかえりなさい」
「小雪」
呼びかけられて目が合った瞬間、切れ長の瞳がスッと細められる。
どことなく怒っている雰囲気に思わず肩を竦めた直後、彼の手が顔に伸びてきて、唐突に眼鏡を外された。
一瞬ぼやけた視界に、先ほどのテレビ以上の近さで彼の顔が迫ってくる。