愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「氷室エナジーという会社は、当社で生産している次世代の自動車のように、クリーンかつパワフルに、この業界を駆け上がりたいと思っています。そのためには、どの部品が欠けてもいけません。部品というのは、社員です。この例えは決して社員の存在を軽んじているわけではなく、むしろ、会社という大きな車を動かすためには、ひとりひとりの小さな働きが肝要であり、必要不可欠だという意味です。どんな部署に所属していても、仕事の大切さは変わらない。当社に入社した際には、そのことを肝に銘じてほしいと思います」

 彼の言葉には氷室エナジーへの入社を希望する若者たちの背中を押すような温かさ、身が引き締まるような厳しさの両方があった。

 さすが人の上に立つリーダーは違うなと、メモを取りながら感心する。

「それでは最後に、現在就職活動中の皆様への応援メッセージをお願いいたします」
「前時代的な競争社会は終わりましたが、私は競争を悪とは考えていません。ただし、比べるべき相手は昨日の自分です。誰かを蹴落とすのではなく、より高みを目指すという志を持って、未来の自分のために努力してください。――以上です」

 社長が言い終えたところで、レコーダーでの録音を停止する。

 秘書の新町さんは、社長の完璧な受け答えに感心したように後ろで小さく拍手していた。

< 15 / 206 >

この作品をシェア

pagetop