愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「こんなに非日常的な体験は初めです」

 普段の私なら分不相応だと腰が引けてしまいそうだけれど、今夜は不思議とそうはならなかった。魔法にかけられたシンデレラのように、夢見心地で王子様を見つめている。

「……俺もだよ」
「えっ?」
「女性とのデートに、こんなにあれこれ手配したのは初めてだ。でも、決してそれが苦だったわけじゃない。きみがどんな表情を見せてくれるのかと思うと、準備すら楽しかったよ」
「遼河さん……」

 本当に、今日の遼河さんはどうしてしまったんだろう。

 それが本音なのだとしたら、私……あなたに惹かれていく気持ちを止められない。

「さ、食べようか。シェフが俺たちの感想を待ってる」

 遼河さんがちらりとキッチンで控えるシェフの方を見る。

 そういえば今ここには私たちの他にシェフもいたんだった。黒子に徹してくれていたからすっかりその存在を忘れていた……。

「そ、そうですね。食べましょう」

 とても空気を読むのがうまいシェフは、終始控えめに、けれどにこやかに給仕までこなしてくれる。

 もちろん彼の作る創作フレンチはすべて美味しくて、最後のコーヒーまで存分に楽しんだ。

< 154 / 206 >

この作品をシェア

pagetop