愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 いったい、車に乗っているのは誰なんだろう。

 なんとなく不安で、フロントガラス越しに彼の様子を見守る。

 遼河さんが後部座席のドアをノックすると、そこから誰かが降りてきた。

 スーツ姿で恰幅の良い中年男性だが、こちらに背を向けて斜めに立っているので、顔はよく見えない。

 遼河さんは男性としばらく言葉を交わした後、こちらに戻ってくる。その顔がややうんざりしているように見え、胸がざわめいた。

 運転席ではなく、助手席側に回ってきた彼が、外からドアを開けた。

「申し訳ないが、出てきて挨拶できるか? ……あの男、鬼瓦山彦だ」

 私にだけ聞こえるよう、声を潜めて言った遼河さん。

 まさかの人物が突然現れたと知り、私も動揺を隠せない。

「鬼瓦さんがどうしてここに……?」
「……探りを入れに来たようだ。父からは俺が結婚したと聞かされたが、それが本当なのか疑っているのだと思う。だから、きみの姿を見せて、妻だと紹介したい。指輪はまだしているな?」
「は、はい……」

 鬼瓦さんは元々、氷室自動車グループの社長――遼河さんのお父様の失脚を狙い、息子である遼河さんが女性関連でスキャンダルを起こすことを狙っていた。

 それをけん制するために、遼河さんは私と契約結婚したのだ。

 この展開はある意味狙い通りなのだろうけれど、まさかこのタイミングで鬼瓦さん本人と顔を合わせることになるとは思わなかった。

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