愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
私は遼河さんに促されて助手席から下り、彼と共に鬼瓦さんの前に立つ。
おそらく、父と同世代だろうか。少々額が後退してきたヘアスタイルの鬼瓦さんは、大きめの目をぎょろりとさせ、私の姿を上から下まで無遠慮に眺めた。
そのまとわりつくような視線に、居心地の悪さを覚える。
「鬼瓦専務。こちらが妻の小雪です」
「はじめまして、夫がいつもお世話になっておりま――」
挨拶をしながら、ぺこりと頭を下げたその時だ。
鬼瓦さんが「ぶっ」と下品に噴き出すのが聞こえ、怪訝に思いながら顔を上げる。
すると、彼はおかしくてたまらないと言わんばかりに、腹を抱えて笑っていた。
……いったい、どういうこと?
「いや~はははっ、失礼失礼。いくら女性関係のカモフラージュがしたいからって、こんなに地味で華がないお嬢さんを選んだんじゃ、説得力がまるでないと思いましてねぇ」
カモフラージュって……もしかして、私と遼河さんの結婚の裏事情を、この人は知っているの?
思わず不安が胸をよぎったものの、遼河さんがスッと前に立ち、私を背にかばう。
「妻を侮辱するのはやめてください。カモフラージュというのも、私にはなんの話なのかさっぱりわかりません。小雪はれっきとした私の妻です」