愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「これは……」

 必死で頭を回転させ言い訳を探すけれど、人事部のいち社員である私が、土曜日に遼河さんの自宅を訪れる正当な理由なんてあるはずがない。

 いったいどうしたら……。

「なーんて。別に、あなたを責めるつもりはないわ」
「えっ……?」

 突然態度を変えた小鹿さんが、スマホを手元に戻してまた背後の長机にもたれる。呆然とする私に、彼女は一見優しげなな笑みを向ける。

「どうせ、社長の遊び相手の内のひとりなんでしょう? 社長の気まぐれで金曜の夜にでも呼び出されて、翌日の撮影前に帰ろうとしていた。そこに、タイミング悪く私たちが現れた」

 彼女はなにか誤解しているようだけれど、本当のことを言うわけにもいかず、口を噤むことしかできない。でも、どうして遊び相手だなんて発想になるの?

 遼河さんはそんなに不真面目な人じゃないのに……。

「私もね、もしかしたら本命かもと考えなくもなかったわ。でも、あなたという存在を必死で隠そうとしたのが、真剣なお付き合いじゃない証拠。ま、当然よね。見た目も地味で、人事部で誰にでもできる仕事をこなすだけのあなたに、社長のパートナーが務まるはずはないもの」

 ずっとコンプレックスを感じてきた小鹿さん本人に、真正面から自分の弱点を指摘され、鉛を飲み込んだように胸が重たくなった。

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