愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「はい。ごめんなさい電話に出られなくて……。出張はどうされたんですか?」
『工場の機械に不具合が出て、新型バッテリーの試作が中断してしまったんだ。メンテナンスにも時間がかかるようだから、視察は別の日に改めることになった。――そんなことより』

 彼が突然語気を強めたので、ビクッと肩が跳ねる。

『今、どこにいる? 朝イチの新幹線で帰ってきたら家にきみの姿がないし、その上旅行鞄もない。実家のお父さんにも聞いてみたが、帰ってないという。……まさか、家出のつもりじゃないよな? すぐに迎えに行くから、なにかあるなら話してほしい』

 否定しようにも、彼が一気にまくし立てるので口を挟む隙が無かった。

 遼河さんのことで悩んでいたのは事実だけれど、家出だなんて物騒なものじゃなく、琉美と平和にパジャマパーティーをしていただけなのに……。

 早く誤解を解かなければと思う反面、父に連絡するほど心配してくれたのだと思うと、彼への愛しさで胸が熱くなる。

 私のことでこんなに必死になってくれる彼を信じないで、小鹿さんや鬼瓦さんの発言に踊らされるなんて、きっと馬鹿げたこと。

 私は妻として、これからも遼河さんの隣にいていいのか。それを尋ねるべき相手は、悪意を持った他人ではなく、遼河さん本人だ。

 たとえ今はまだ自分に自信がなくても、勝手にあきらめてしまったらきっと後悔する。

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