愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
そばにいたウエイターからシャンパングラスを受け取った鬼瓦は、俺に向けて乾杯の合図をするように、グラスを掲げた。
それを一気飲みした彼は、下品におくびを漏らして俺を見る。
「これはこれは、氷室の坊ちゃんじゃないですか。見ましたよ、先月の氷室ローカル。相変わらずメディアを使った印象操作がお上手でいらっしゃる」
「番組名ひとつ正しく覚えられないとは、一杯目のお酒で酔われているようですね、鬼瓦専務」
「なにをおっしゃいます。あなたこそ、世間への愛妻家アピールのためとはいえ、あんなに地味で陰気くさい女性を会社の動画に出演させるなんて、どうかしてます。――あぁ、失礼。ご本人、後ろにいらっしゃったんですね」
自分の発言がそうとう愉快らしく、鬼瓦はひとりで「がははっ」と噴き出している。
ここまで馬鹿だと、いっそ清々しい。こちらも一切情けをかけずに済むので大助かりだ。
「これから必死で愛妻家アピールをしなければならないのは、あなたの方では?」
俺はそう言って、内ポケットからスマホを半分ほど引き出す。そして、きちんと通話状態になっているのを確認すると、再びポケットに戻した。