愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 氷室社長は新町さんの制止を無視し、抑揚のない声で語る。

 父の件を第三者から冷静に指摘されるのは複雑な気持ちだった。家庭の事情に土足で踏み込まれた不快感も相まって、声に棘が滲む。

「無断でそんなことまで調べるなんて、プライバシーの侵害なのでは……?」
「申し訳ありませんでした、仲真さん。どうか冷静に話を聞いてください」

 ソファから腰を浮かせた新町さんがなんとか険悪なムードを取りなそうとするものの、その間も涼しい顔で私を見据える氷室社長を見ていたら、余計に腹が立ってきた。

 これだから一軍の人は苦手なのだ。自分たちの理想を叶えるためなら、犠牲になる人の気持ちなんて考えようともしない。

 そういえば、社長はインタビューの時に社員を『部品』だなんて表現していたっけ。

 あの時は悪くない表現だと思ったものの、改めて考えると傲慢な発言に思えてくる。

「私は、社長の人生を思い通りに動かすための部品ではありません。仕事の方は今後も変わらず励むつもりですが、それ以外のご期待には沿えません。ご理解ください」

 いつもなら飲み込んでいたはずの発言がスルスルと口から飛び出し、自分でも驚いた。

 しかし、相手は会社のトップ。言い終わるなり後悔に苛まれ、逃げるように社長室を飛び出す。

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