愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
はやる気持ちでエレベーターのボタンを押し、ドアが開いたので何も考えずに足を踏み入れようとしたけれど――。
「きゃっ」
私がよく見ていなかったせいで、中から降りてきた女性社員と軽くぶつかってしまった。
鼻先を、甘い香水の香りがかすめる。
「す、すみません!」
「いえ、こちらこそ」
こちらからぶつかったにもかかわらず、相手の女性は朗らかにそう言ってくれる。
ズレてしまった眼鏡を直して相手の顔をよく見ると、緩く巻いた髪や化粧映えする華やかな顔立ちに見覚えがあった。
この人、確か氷室エクスプレスでよく進行役やインタビュアーをしている……。
名前がすぐに思い出せず、とっさに彼女が首から下げている社員証に目をやる。
【広報部 小鹿美羽】
――そうだ。小鹿さん。
社長と一緒に出演していてもまったく物怖じする様子もなく、まるで女子アナウンサーのように綺麗で流暢に話す姿には、毎回感心していた。
「あの、なにか……?」
私がジッと見つめすぎていたのだろう。小鹿さんが困惑したように首を傾げる。
その仕草で彼女の耳の小ぶりなイヤリングが揺れ、本当に綺麗な人だと眩しく思う。