愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
「あの、その件ならもう気にしていませんので……」
「きみが気にしていなくても、俺の気が済まない。とにかく今夜は付き合ってもらう」
氷室社長はそれだけ言い残すと、くるりと背を向けて歩き出す。
私はいったいどうしたら……。
「いつまでそこに突っ立ってる。タクシーを待たせてるから早く来い」
少し先で立ち尽くす私を振り返り、命令口調で指示する彼。
謝罪したいと思っている人の言い方ではないような……?
やっぱり彼は苦手だと思いつつも、そこまで言われて反抗する勇気はない。
私は観念してバッグを持つと、周囲の人々の視線が体中に刺さるのを感じながら、遠慮がちに社長の後ろを歩くのだった。
およそ三十分後、私は都心のフレンチレストランに連れてこられた。
ビルの四十五階にあるため、エレベーターに乗っている長い時間を気まずく感じたけれど、そんなのは序の口だった。
レストランに足を踏み入れた瞬間、そこに広がっていたラグジュアリーな雰囲気に気後れし、一歩足が後ろに下がった。
吹き抜けの高い天井にはクリスタルのシャンデリアが煌き、広い窓からは東京タワーやその周辺の美しい夜景が見える。
その夜景を引き立たせるためなのか最低限に落とされており、どのテーブルにいるお客さんも静かなトーンで会話をしながら食事やワインを楽しんでいて、優雅だ。