愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
「し、失礼ですよ」
「冗談だ」
そう言って、微かに口角を上げた氷室社長。
冗談にしてはわかりにくいしブラックすぎるでしょうと、声に出さずに思う。
私たちの間に流れる空気は甘ったるいどころか少しもほぐれる様子がないけれど、少ししてウエイターが食前酒を運んできた。
細いフルートグラスに満たされているのは、透明感のある赤色のお酒だ。
「これがキールロワイヤルですか」
「カシスリキュールとシャンパンで作ったカクテルだ。すっきりした味わいで食欲が増す。とりあえず、乾杯しよう」
彼が目の高さにグラスを掲げたので、私も遅れて同じ動作をする。なんだか現実味のない展開だけれど、とりあえずグラスに口をつけた。
「美味しい……」
「そうか。きみの口に合わなかったらお詫びのしるしにならないからな」
社長がふっと微苦笑を浮かべる。
わかりにくい言い方ではあるけれど、私の反応にホッとしている……のかな?
緊張の糸が少しだけ緩んだところで、前菜とペアリングのワインが運ばれてくる。温野菜を添えたお肉のパテ、それに赤ワインがテーブルに彩りを添えた。