愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 ナイフで小さく切り分けて口に運んだパテは、濃厚だけれどくせがなく、ほのかにナッツの香りがする。

 ワインを口に含むと、複雑で芳醇な味わいが舌の上に広がった。

「うまい、と顔に書いてあるな」

 私よりも早いペースで食べ進める社長が、にやりと笑う。図星だったので頬が熱くなった。

「初めての味ですが、とても美味しいです」
「目の前にいる俺より、前菜とワインに夢中。やはり、きみには結婚相手としての適性がある。……一度は断られたが、もう一度考え直してはもらえないか」
「えっ……?」

 このタイミングで話の矛先がそちらへ向くとは思わず、動揺してしまった。

 社長は正面で赤ワインのグラスをくいっと傾け、空になったそれを静かに置いた。

「きみのプレイベートを勝手に暴いたのは申し訳なかったと思っている。焦っていたとはいえ許してほしい」

 プライベート……おそらく、父のことだろう。

 社長室でその話をされた時は悪びれる様子もなかったけれど、新町さんが彼を叱ったりしたのだろうか。でも、謝ってもらったところで私の気持ちは変わらない。

「そのことはもう気にしていません。ですが、結婚については……」
「俺も本心では、結婚なんかしたくないと思っている。しかし、このままでは氷室自動車グループ内における、俺の旗色が悪くなる。それを回避したいんだ」

 氷室社長が苦し気に眉根を寄せた。

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