愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 俺は傍らの契約書を目で追い、俺が所有する一軒家で同居すること、家計の管理はこちらに一任してもらうことなど、すでに記載済みの内容以外で、追加すべき条件を思い浮かべる。

「結婚生活では、お互いを下の名前で呼ぶ。これはいいな?」
「えっ」

 彼女が少し戸惑いの色を見せたので、説明を加える。

「別に親しみをこめて呼ぶ必要はない。お互いの家族への挨拶だとか、必要な場面が訪れた時に相応しい振る舞いができるよう、日頃から慣れておいてほしいという意味だ」
「なるほど……そうですね。承知しました」
「それと、わかっていると思うが俺という人間を好きになる必要はないし、俺もきみに特別な感情を抱くつもりはない。当然夫婦生活もなしだ」

 夫婦生活というワードに反応したのか、彼女は一瞬困ったように視線を泳がせる。

 しかし、それが〝なし〟だという契約について話しただけだと気づいたのか、最終的にはこくんと頷いた。

「この結婚はあくまでビジネスの一環であり、鬼瓦山彦への対抗手段だ。家庭内での夫婦の力関係は対等で、会社での立場は関係ない。だから、生活の中に不都合があれば遠慮なく申し出てほしい」
「はい。すぐには切り替えられないかもしれませんが、努力します」

 神妙な顔でそう言った小雪は、箸を置いて背筋を伸ばしている。食べながらでいいと言ったのに、俺の発言中は食べにくいようだ。

 一般社員……とくに、会食やランチミーティングに不慣れな部署に所属する彼女には、少し酷だったかもしれない。

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