愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
「続きは食べ終わってからにするか。弁当の鮮度も落ちる」
「あっ、すみません……。つい」
「休憩中にきみと話している時の俺は社長ではない。こんなことで謝るな」
「すみませ――」
反射的にまた謝ろうとした彼女が、とっさに自分の口に手を当てる。
なんと言ったらいいのか考えあぐねているのだろう。しばらく視線を泳がせてから、ようやく俺を見つめた。
「ええと、わかりました。……遼河、さん」
「それでいい」
そっけなく答え、俺は食事に集中する。
契約結婚の話以外で彼女と共通の話題などあるはずもなく、黙々と箸を動かすをする音だけが、社長室に響く。
別に無言でも俺個人としては問題ないと思うが、これから結婚する相手と向き合っている割には、あまりにも空気が悪い。
お互い快適に生活するためには、もう少しムードを明るくした方がいいのではないだろうか。
しかし、俺は仕事以外で女性の機嫌など取った経験がない。
自分で考えることを放棄した俺は、背後に立つ秘書の方を振り返る。
「新町」
「はい。どうしました?」
「一発芸でもしてこの場を和ませろ」
俺がそう言った瞬間、正面で小雪が小さく咳込んだ。
怪訝に思って彼女を見つめると、手のひらで鼻から下を隠しているものの、小さく肩を震わせて必死に笑いをこらえている……ように見える。