愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
『すまん、ありがとな』
『でも珍しいね。会社の人と?』
『ま、まぁ、そんな感じだ』
その歯切れの悪い返事で、なんとなく察したのだ。会社の人というのは嘘じゃないにしても、相手は女性なのではないかと。
面と向かって本人には言わないけれど、父は五十代にしてはカッコいい方だと思う。
私の垂れ目は母からの遺伝で、父はきりっとした吊り目。それが笑う時だけ優しげに細められる表情が子どもの頃から大好きだ。
白髪交じりの髪はふさふさだし、トラックの荷物を上げ下ろしするからか、体格も若い頃とあまり変わっていない。そんな父にこれまで女性の影がなかったのは、娘である私の存在が大きな理由だろう。
私たち父娘の間には、こんな約束もある。
『小雪が家を出ていく時は、結婚する時だ。お前をひとりにさせたら、天国のお母さんも心配するからな』
少し、過保護な条件だとは思う。でも、男手ひとつで私を育ててくれた責任感からの言葉だとはわかっているため、わざわざ反抗してひとり暮らしをしようとは思わなかった。
勤務先の氷室エナジーも実家から問題なく通えるし、私だって父をひとりにするのは心配だったから。