愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 断ろうにも、『社長、次回もぜひお願いします』、『今回は社長の出演がなかったので伸びがイマイチで……』、『社長への質問メールが百件届いています』――と、反響をもらってしまうと、引き受けざるを得ない。

 秘書の新町は『本当はああいうの苦手だろ。たまには断れよ』と俺を気遣ってくれる。

 しかし、結果を出している部署からの依頼にはこちらも応えたいし、氷室エナジーを広く認知してもらうために尽力するのは、経営者としての責務でもある。

 だから、撮影の時は個人的な感情は締め出して、不本意にも体に染みついた演技力を発揮するのである。

「氷室社長は、週に何回くらいこちらの社員食堂を利用されますか?」

 小鹿に尋ねられ、我に返る。小鹿と同じテーブルにつき撮影隊に囲まれた俺は、軽く目を伏せて悩んだそぶりを見せた。

「そうですね……。こちらで食べれば栄養バランスも整うので本当は毎日来たいくらいですが、昼は会食などもありますから、週に二回来られればいい方です」

 答えながら自然と思い返すのは、先日妻の小雪に作ってもらった手の込んだ夕食だ。

 彼女は話題作りのためとさりげなく言っていたが、本当にそうだったのだろうか。

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