偽王子と、甘い偽恋
腹黒王子との生活準備。
 そんな話をしたその週末には、引っ越し準備が始まった。

 新居のマンションも軽く見に行ったけれど、職場から本当に近く、驚くほど広い家だった。

 家具はすでに揃っていて、生活環境はとっくに整えられている。

 私の部屋も用意されていたが、家具の好みなどは私が後から選べるようにと、あえて質素でいじりがいのある状態のまま残されていた。

 あとは、今の部屋から荷物を移しさえすれば、すぐにでも住み始められる。

 大学時代から四年以上も過ごしたこの部屋。両親の支援に感謝しつつ、時には貧しさに苦労しながらも、なんとかやりくりして過ごしてきた思い出深い場所だ。ここで課題に追われたこともあったし、仕事でへとへとになって帰ってきたこともあった。

 まさに、私の"好きなもの"を詰め込んだような家だった。

 感慨に浸りながら、少しずつ段ボールに必要なものを詰めていく。

 新生活に向けてできる限り物は持っていかないよう断捨離も並行しているのだが、ふとした拍子に思い出の品や懐かしい漫画を見つけては手が止まり、作業がちっとも進まなくなる。

 そんな時、後ろから丸めた雑誌か何かで軽く頭を叩かれた。


「あてっ」

「さっさとやれよ」


 臣くんにそう喝を入れられ、私は仕方なく再び段ボールに物を詰め始めた。

 彼との新生活はもちろん楽しみでしかないし、早く一緒に暮らしたい。
 だけど、思い出という名の煩悩には、どうしても勝てそうにない。
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